『妄虎千夜一夜物語』

 「妄想は忘れた頃にやってくる」
 「助っ人は忘れたほうが丁度いい」
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シーズンが開幕して、リアルなタイガースの前にしばし妄想は霞んでしまうようです。 でも、そんな時も“妄想菌”はしっかり養分を蓄えているのです。いずれ訪れるかもしれない湿りっぱなしの季節に備えて、じわりじわりと……。

〜妄虎千夜一夜委員会〜

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ケンちゃん
ケンちゃんはその日遠出をした

松屋町筋を北へ大阪城公園を経由して京橋まで
敬愛する金本の大事な節目の試合をTVで見るために
炎天下の大阪をふらふらふら走って行ったのである

あの日以来、安城自転車店のじじいが
店先にTVを置いてくれるようになったので
ケンちゃんとその仲間たちは
動く阪神タイガースを見られるようになっていたのだが
先週から安城のじじいは
ばばあを連れてゲロ温泉とか言う妙な名前の所に
盆休み旅行に出かけてしまっていたのである

お門違いも甚だしいが
ケンちゃんと仲間たちは憤慨していた
悪夢の名古屋三連敗も安城のじじいのせいになり
あわれ安城自転車店のシャッターは
怒り狂ったよっちゃんに立ちションをかけられるという
悲惨な目にあっていたのである


文明を知ってしまったケンちゃんは
どうしても金本の千試合をTVで見たかったので
自らの記憶をたどり、TVの見れる場所を考えた

タクシー運転手をしてたころ
早番の日に洗車を終えて飲んでいた京橋の一杯飲み屋
ドテ焼きの鉄板の向こうにTVがあった
あそこなら店の外からでも見えるはずである

かくしてケンちゃんは松屋町筋を北上することとなったのである

通りがけに寄った夏休みの大阪城公園は空き缶の大豊作であった
最近はペットボトルが増えたせいで
長らく一杯になることがなかったケンちゃんのポリ袋が
左のスチール缶も右のアルミ缶もはちきれそうな位パンパンになって
ケンちゃんはすっかりご機嫌で
京橋商店街の一杯飲み屋前に自転車を止めたのである

前かがみの姿勢でハンドルに身体を預け
右足はペダルに乗せたまま、左足一本で身体を支えている
TVの位置が記憶よりずっと奥にあったので
細かいカウントや打球の行方はわからなかったが
金本のタイムリーはよくわかった
金本の犠牲フライはホームランだと思った

試合が終わりナインに駆け寄る金本の姿を見て
ケンちゃんはどうしても我慢が出来なくなって
店の中に入ってしまった
ヒーローインタビューを聞きながら
ドテ焼きをつまみ、生ビールを飲んだ

久しぶりの冷えたビールが身体に沁み込んで
嬉しいような、淋しいような、甘酸っぱい気持ちが
ケンちゃんの身体を包みこんだ

胸のお守りからキレイに折りたたんだ千円札を出し
店を出て自転車のスタンドを外した

いつものようにふらふらふらふら走っていると
商店街いっぱいに広がって歩く酔っ払い集団にぶつかった
せっかくの良い気分が台無しにされてしまい
ケンちゃんはいつものように
左手にチアホーンのゴムを握り、右手の指をベルにかけた











「やっぱ金本さんですよー!」









目の前にいたお嬢がいきなり言ったのである
ケンちゃんは自分に向かって言ったのだと勘違いして
ドギマギしてしまったが、もちろん違った










「金本ダーリンはねぇ〜絶対あきらめてないねん!」







今度は左の方にいた日焼けのまぶしいお姐が言った



ケンちゃんは左手をチアホーンから外し
右手の指をベルから離した
自転車では走れないぐらい集団がのろのろ歩くので
ケンちゃんは自転車を押しながら集団のあとをついていった

一号線をまたぐ横断歩道の手前で集団が足を止めた時
ケンちゃんは端から見れば困っている顔にしか見えない
彼独特の笑顔を浮かべながら呟いた















「今年は金本来たから優勝や」
| Ryuhey | 妄想 | comments(0) | trackbacks(0) |
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