『妄虎千夜一夜物語』

 「妄想は忘れた頃にやってくる」
 「助っ人は忘れたほうが丁度いい」
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シーズンが開幕して、リアルなタイガースの前にしばし妄想は霞んでしまうようです。 でも、そんな時も“妄想菌”はしっかり養分を蓄えているのです。いずれ訪れるかもしれない湿りっぱなしの季節に備えて、じわりじわりと……。

〜妄虎千夜一夜委員会〜

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辞表
西宮市の岡田邸にて。

デーゲームに敗れて、今シーズン2度目の10連敗を記録した夜。
9時過ぎに自宅に戻った監督は、食事も採らずに書斎にこもったまま、いよいよ日付が変わろうとしていた。
陽子も陽集も監督が帰宅のとき、意識的に目を合わさないようにしながら、できるだけいつもと同じようなテンションで迎えたつもりだった。もちろん、野球のことは一言も触れずに。
しかし、さすがに今日ばかしはいつにも増して険しい表情だった。だから、一直線で書斎に向かった監督に食事のことを聞くタイミングを逃してしまったままだった。あれからもうすでに3時間以上、物音一つ立てずに部屋にこもったままだった。

陽子には少しだけ胸騒ぎするものがあった。
それは、昨晩の夕食のときだった。
その日は試合がなかったので、ひさしぶりに家族水入らずの夕食を楽しんでいた。
テレビは極力、野球の話題を避けて、当たり障りのないバラエティー番組を流していた。
その時、特にこちらが何を聞いたわけでもないのに突然、ぼそっと監督が独り言をつぶやいた。

「もう、潮時かなあ……」

突然だったし、小声でもあったので確信はもてなかったが、陽子の耳にはそう聞こえた。
あとでこっそり陽集にも聞いてみたが、彼もそんなふうだったと言っていた。
(いよいよ、決心を固めたのか?)

                      ◇

8月に入ってからもチーム状態は低迷したままだった。
去年の今頃だったろうか。例の「球児の涙」のあとの快進撃が始まったのは。
しかし、今年の場合、すでに優勝はおろか、プレーオフの挑戦資格である三位以内の成績も絶望的な状況だった。いや、このまま下手すれば6年ぶりの最下位もありえる低迷ぶりだった。
スポーツ紙も連日、「岡田引責辞任近し!」の活字が躍っていた。
まだ、シーズンは30試合も残しているというのに。

                      ◇

書斎で筆ペンを握った彼は、何度も書いては捨て書いては捨てを繰り返していた。
どうしても「辞表」の「表」の字が気に食わなかったからだ。
試し書きに用意した半紙の束もついには無くなり、仕方ないので傍にあったスポーツ紙を使って、試し書きを続けていた。それでも、なかなか納得のいく字が書けなかったことに苛立っていた。

「オレ、習字は得意やったのになあ……」

しかし、さすがに食事も採らずに3時間もすると、いくらなんでも根気が萎えてきた。

「ま、ええか。こんなもんで」

そう言うと、机の引き出しにしまってあった白い封筒を取り出した。
中身のほうは数日前にすでにしたためてあった。
机の上に封筒を置くと、しばらくの間、真っ白な封筒を見つめていた。
そして、おもむろに筆ペンを握ると、あっという間に表紙に「辞表」と書き添えた。

「おっ、ええ感じやん。やっぱりオレって本番に強いなあ」

すこし自嘲気味ながらも、まんざらでもなさげに微笑した。
その時、ドアの向こうから妻の声がした。

「あなた、お食事かお風呂はどうされます?」
「お、丁度良かった。今から降りようと思ってたんや。風呂、先に入るから晩酌の準備しといてくれ」

ドアを開けながらそう返事した。
そこには陽子が立っていた。

「実はなあ、お前に頼みたいことがあるんや」

そう言うと、今、書き上げた「辞表」の封筒を彼女に差し出した。

「え?これってもしかして?」
「そうや。オレもだいぶと悩んだんやが、ここが潮時や思うてなあ」
「あなた、お疲れ様でした。私はあなたの決めたことに付いて行くだけですから」
「いや、そない仰々しくせんでもええやん。オレのワガママなんやから」
「陽集も理解してくれると思いますから」
「すまんなあ。あいつに面と向かって言うのは照れるから、お前から言うとってくれ。ほな明日、この辞表を届けてくれるか?」
「え?私がですか?」
「そや。お前がや」
「誰に届けるんですか?」
「そんなん決まってるやん。はす向かいの木戸さんやん」
「え?副町会長の木戸さんのことですか?それって町会長を辞めるって話ですか……」
「そや。なんやと思うたんや?」
「い、いえ……」
「オレも野球のほうに専念せんなあかんからなあ。せやからちゅうて町会長の仕事、お留守にしたらいかんやろ?それに副町会長の木戸はん。あのオッサン、前々から会長の座、狙ってたからなあ。きっと内心ほくそ笑んどるに違いないで。くっそー……」

「あ、あなた……」

| いわほー | 妄想 | comments(2) | trackbacks(0) |
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おりがみ (2007/05/06 3:48 PM)
うちのおっと団地の副会長なんですよ。
会長さんがまーーーーーーーーーーーったくなーーーーーーーーーーーーーんもやんないので、実務から会議進行から一手に引き受けております。
今日も別の団地で会議だそうで・・。


「会長の方が楽そうに見えるけどね、住民の苦情が集中するTOPよりも、今のほうがずっとヤリガイあるよ」

だそうです。ぐふふ。
メル (2007/05/18 4:40 PM)
陽集くんのPTAの会長ではなかったんですね。
8月のデーゲームは暑いわ。













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